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メルセネール株式会社(以下、メルセネール)は、これまでにさまざまな業界で、多くの企業の新規事業支援を行ってきました。新規事業を進める上で大切となるフレームワークの活用方法やインタビューなどのテクニックは、書籍や各種セミナーなどでも一定数は明かされています。一方で、公になっている内容は論理的な話が多いことから、「実際の現場ではどのような感じなのか?」「具体的な話が聞きたい!」というお声をお客様から頂くケースも少なくはありません。
今回は、メルセネールがご提供するサービスの一つである『新規事業伴走メンタリング』を通じ、実際にあったお話をベースに「どのように新規事業の検討活動が進むのか?」を、我々の経験を踏まえた独自の解釈を交えつつ、3つのテーマから解説します。なお、前編となる本記事では「第1話 新規事業の『アイデア』 着想時のポイント」についてをご紹介します。
※本記事は2022年10月26日に実施されたオンラインイベント「【実録!新規事業のプロが実際に見た】新規事業アイディアの検証×ピボット×前進のリアル」の内容をまとめ、その一部を記事化したものです。
本題に入る前に、メルセネールが実施している『新規事業伴走メンタリング』について簡単にご説明します。新規事業を進めていくにあたって、適切な進め方が分からなかったり、ちょっとした想定外の出来事が発生したりすると、新規事業の検討を進める人(以下、検討者)の手が止まってしまうケースは少なくありません。
『新規事業伴走メンタリング』では、新規事業の検討チームと我々メンターで一つのチームを作り、検討者の悩みをメンターがヒアリングし、ネクストアクションの明確化を行います。他のメンタリングと異なるのは、新規事業を検討する中で何が起きても検討者の皆様が臨機応変に動け、最終的には自走できるだけの力を養うことを目指している点です。
実際の『新規事業伴走メンタリング』では、毎週1〜2回の定例ミーティングと検討活動を繰り返し行います。必要に応じ、我々が整理した約数百ページにわたる方法論から、必要なスキルやナレッジをメインに体系的に解説を行い、検討者の皆様へインストールしていきます。
検討活動というのは、ネットで情報を調べたり、外へ出てインタビューなどを行ったりと、検討者自身が実際に新規事業に向けた情報を集めることです。もし、この時に悩みや疑問点などが発生した場合、メンターがチャットなどのオンラインツールを用いてサポートを行います。
主役はあくまでも検討チームの皆様であり、我々は伴走する黒子としてご支援するのが本サービスの特徴です。コンサルティング業務とは異なり、あくまでも伴走サポートが主となるため、安価な費用でご提供ができる点は、ご利用いただいた皆様からもご好評頂いております。なお、事業幹部や経営者の皆様には、より期待が持てる新規事業案の創出とその環境づくりをサポートするための併走サービスとお考えいただければと存じます。
本イベントでお話したいテーマは以下の3つです。前半となる本編で「第1話 インタビュー? Web検索? 新規事業の『アイデア』着想時のポイント」についてご説明します。
今回は、BtoBがメインビジネスのIT系企業で新規事業を立ち上げたい会社員のスナオさんとそれを伴走サポートするメンターXを主な登場人物として話を進めていきます。メンターXの発言は普段我々がメンターとして検討者の皆様にお伝えすることばかりです。ぜひ、スナオさんとメンターXとのやり取りを通し、「ご自身がスナオさんならどう考え、行動するのか?」を思いながら、最後までご覧ください。
なお、実在したテーマややり取りを題材としておりますが、検討者に確認を得た上で、適宜加工してご紹介しております。
全7日間で実施されるメンタリングの1日目のテーマは「アイデアを着想する」です。メンターXが「新規事業のアイデアを持たないといけない」と冒頭でスナオさんにお話していますが、実際のメンタリングでも、メンターが一番最初に検討者の皆様にお伝えすることです。
アイデアの着想方法はいろいろとありますが、「周りと話していく中で、情報を集めよう」とメンターXはスナオさんにアドバイスしています。
メンタリングの現場でアイデアの着想について話すと「アイデアとはどんなものなのか?」と、検討者の皆様からご質問を頂きます。その際は「『誰の』『どんなお悩みを』「どんな方法で解決し』『結果として、どんな世界ができるか?』の4つを仮でまとめられると良い」とお答えしています。
上の図は、ビジネスアイデア・ビジネスコンセプト・ビジネスモデル・提案までの4つの過程に沿って「目的」「相手」「目指すモノ」「マインド」を整理したものです。ビジネスアイデアから提案にフェーズが進むにつれて「目的」「相手」「目指すモノ」「マインド」の視点がクリアになっていくのが分かると思います。
目的部分に絞りご説明をすると、ビジネスアイデアは「あくまでも検討のスタート地点」というイメージです。そのため、「特に検証されていなくても構いませんし、『これだ!』というのがご自身の中にあれば問題ありません」と、普段のメンタリングから検討者の皆様にお伝えしています。
ビジネスコンセプトは、お客様のリアルな話や声を聞いて、磨きこむフェーズです。その次のビジネスモデルで、実現性と収益性が担保できるかを確認し、カタチに落とし込んでいきます。
繰り返しになりますが、ビジネスアイデアは、あくまでもスタート地点です。アイデアの段階では「カオスな状態でも全然良い」と我々は考えています。
ただし、アイデアを考える段階で「想定するターゲット」「悩み(Pain)」「解決する方法」「実現したい世界」の4つの視点は少なくともたたき台として持っておく必要があります。既に新規事業のタネを持ってる人についても、「この4つを押さえてくださいね」とアドバイスしています。
【アイデアを考える段階で少なくとも持っておきたい4つの視点】
今後、検討者の皆様と我々メンターの間で、この4つの視点をぐるぐる回しながら、アイデアを深めていきます。
スナオさんは1日目のメンタリング内容を踏まえ、数日後に開催された同窓会で友人たちに困ってることを聞いて周りました。10人ぐらいに話を聞きましたが、健康のこと、家族のことなど、悩みといえば悩みなのですが、スナオさんはいまいちシックリとしていません…。
スナオさんとメンターXの2日目のメンタリングのテーマは「アイデア着想時の聞き方」です。
スナオさんのように、「周囲に話を聞いたけれど、自分には全然引っかかりませんでした」という声は、実際のメンタリングでもよく挙がります
質問対象から適切な声を引き出すコツの一つは「シーンから考えてもらうこと」です。例えば今回のスナオさんのように「何か困っていることとかない?」と尋ねる方法のように、ダイレクトに相手に悩みを問うと、人によっては悩みよりもグチっぽい回答になってしまいます。
加えて、「BtoBの新規事業に合うか合わないかで無意識に判断している」とスナオさんはメンターXから指摘されました。
「BtoBにマッチする新規事業でも良いのですが、そこにフィットするような問いかけをしないと、スナオさんご自身に 引っかかってくるような話を聞き出すのは難しいですよね」(メンターX)
聞き方のコツは「少しシーンを絞って聞くこと」です。相手にこちらが想定するシーンで考えてもらえるよう、例えば、「仕事をしていて、何か悩みがある?」「子育てをしながら何を考えてるの?」などのように情景が思い浮かぶように聞いてみましょう。
「最近のことを聞く」のも聞き方のコツの一つです。昔のことを思い出そうとすると、脳はしんどいことを考えたくないので、頭に負荷がかかります。例えば、「今週、予定外に時間をつかってしまったことは?」「昨日、一番腹が立ったことは?」のように時間軸で聞くのがポイントです。
想定するターゲットについては、具体的に、年齢や性別、属性など、相手の顔が見えていることが大事ですが、今回のスナオさんのように、目の前にいる相手を質問対象としている場合は、特に気にする必要はありません。
解決する方法については、アイデア着想時にはそこまで重視されないため、「悩み」の対話に時間を充てた方が良いでしょう。最後に軽く聞くぐらいが、ちょうど良いです。
2日目のメンタリング後、スナオさんはたまたまコンビニで友人のタカシ氏に再会します。メンタリング内容を踏まえた質問をすると「中小企業の社長ならでは悩み」をタカシ氏から聞けました。
メンタリングも早いもので3日目。スナオさんは、先日コンビニで再開したタカシ氏の話を元に、自身が考えた4つの視点を報告しました。
「『中小企業の社長』の『お金が足りず、また最適な補助金が見つからない』という悩みを、『Web等で簡単に見つけられる』サービスで解決できたらと考えました。『誠実に頑張っている中小企業が不安なく操業できる世界』を実現できたら良いなと思っています」(スナオさん)
これを聞いたメンターXは「スタート地点としては良い感じですね」とスナオさんを褒めました。実際のメンタリングでも、「最初のビジネスアイデアとしては、このぐらいの粒度で大丈夫です」とお伝えしています。
スナオさんは、さまざまな人へのインタビューを経て、ようやく自分なりのアイデアを着想できました。「想定するターゲット」「悩み(Pain)」「解決する方法」「実現したい世界」の4つの視点は、実際のメンタリングでも大変重要な要素で、何かあればこれらの視点に立ち返り、話を進めていきます。特に、「実現したい世界」が何なのかが後々大事になってきます。なお、我々はこの4つの視点を「4点セット」とメンタリング時には呼んでいます。
ここでスナオさんが考えた4つの視点(4点セット)をまとめましょう。
【スナオさんが考えた4つの視点(4点セット)】
メンターXはスナオさんに「似たようなサービスはまだ無いのですか?」と話を続けます。
実際のメンタリングでも、類似サービスの確認は大事な要素の一つです。どうしてもアイデアで良いモノが見つかると、スナオさんのように「早速インタビューをしなくては!」など、各種検討が不十分な状態でどんどん突っ込んでしまう検討者が少なくないからです。もし、同じような方がいましたら、その熱量をエネルギーにWeb検索等のリサーチを行ってください。ここで十分なリサーチができているかどうかが、後の検討に関わってきます。
メンターXの助言を受け、スナオさんが「補助金 検索」とWeb検索をすると、経産省や中小企業庁などの省庁が運営するポータルサイトを始め、独立行政法人や民間企業が運営するサイトなど多数のサイトがヒットしました。
スナオさんのように、実際に検討者の皆様がご自身のアイデアをWeb検索すると、大きく次の4つのパターンが起こります。
実際のメンタリングでこれら4つのパターンを見た検討者の皆様は、以下のような反応を示すことが多いです。
ほぼ同じような先行プレイヤーが存在する場合には、「新しく別のアイデアを考えないとダメだ」という反応を取る検討者が多いです。解決策の代替品が存在する場合には、考え方が二極化する傾向にあります。
ターゲットとは異なるが類似品が存在する場合、これはメンタリングではほぼ出てきません。なぜなら、リサーチ力が一定のレベルでないと、パッと見ただけでは気付けないからです。
似たようなものが存在しない場合、「どれだけ検索しても自分のアイデアのようなサービスはありません。これは気づいちゃった (大発見かも)しれません!」のような反応を示します。
それぞれの反応に対し、我々メンターは話を深堀りしてもらえるよう「こう考えたらどうですか?」と次のような質問をしていきます。
ほぼ同じような先行プレイヤーが存在する場合には、市場に悩みが存在していることは間違いありませんので、「今のサービスや仕組みを超える方法を考えることはできないか?」とアドバイスをします。
解決策の代替品が存在する場合にも、市場に悩みが存在していることに違いはありません。この場合には、「現在市場に出回っている代替品よりもより良い製品やサービス、より市場に受け入れられるための方法を模索できないか?」などを検討者には伝えています。
ターゲットとは異なるが類似品が存在する場合には、既に他の業界で成功している人たちがいる可能性を示唆した上で、「彼らが業界を超えて乗り込んできたらどうするのか?」「ターゲット層を、大企業から中小企業へ変えてきたら?」など、想定できる範囲で可能性を提示します。
最後に似たようなものが存在しない場合ですが、「似たようなサービスが無いのは空白地ではなく、ビジネスにできない落とし穴が何か存在するのではありませんか?」と伝えています。つまり、事業として成立しない要素が隠れている可能性があるかもしれないということです。法規制や市場性の問題などから、ビジネスそのものを行うこと自体が難しい可能性もあります。
似たようなビジネスが存在するかどうかによって、この後の進め方や方向性が変わってきます。競合調査とまでは言わないものの、「似たようなビジネスがないかどうかは、Webで早めにサクッと調べてほしい」はメンタリング時に必ず伝えることの一つです。
実際にスナオさんが自身の事業テーマを調べると「ほぼ同じような先行プレイヤーが存在するパターン」に該当しました。行政が運営しているサイトもあり、スナオさんは「諦めるしかないかも…」と弱気になっています。そこでメンターXは、スナオさんに「実際に各サービスを使ってみましたか?」と質問をしました。
「中小企業の社長ではないから使っていないです」と答えるスナオさんに対し、メンターXは可能な範囲でサービスに触れるようにと促します。言われるがままに、自身を中小企業の社長だと想定し、仮置きで定めた従業員数や業界などを入力するスナオさん。
サイトを利用する中で、ページの使いにくさや説明文の難しさに驚くスナオさんに、メンターXは「中小企業の社長たちは、本当にこの中身を理解して、サイトを利用しているのでしょうか? ぜひ、ご友人に聞いてみてはいかがでしょうか? スピードが大事です! 今すぐ聞いてみましょう」とその場で電話するようにと助言をしました。なお、こうした助言は物語だからではなく、実際のメンタリングでも伝えています。
早速、中小企業の社長である友人のタカシ氏に電話をしたスナオさん。「補助金検索用のサイトってどうやって使っているの?これ内容理解できる?」というスナオさんの質問に対し、タカシさんは次のように教えてくれました。
「使ってないよ。一度サイトを開いたけど、難しすぎてさ。俺も暇じゃないし、基本的に税理士の先生にお願いして、自社に当てはまるものを探してもらっているよ。周りの社長仲間も、自力で補助金関係をやりきっている人はそんなにいないのではないかな。手続きも大変だしさ」(タカシ氏)
この会話から、中小企業の社長は創業時に資金調達が困難というペインがある一方で、実際にサービスを利用しているのは税理士など士業の先生だということが分かりました。ただ、もしかしたら中小企業の社長の中には、自身で行政のポータルサイトを使い、補助金を獲得している人もいるかもしれません。
想定ターゲットをこのまま中小企業の社長とするのか、士業の先生方に切り替えていくのか、新規事業としてどちらをターゲットに掘り進んでいくのかを考えなくてはならない分岐点に差しかかりました。これを「アイデアの分岐点」と言い、スナオさんは事業内容を一度見直さないといけなくなりました。まさに、新規事業ピボットの瞬間です。
新規事業をピボットさせる方法はいくつかありますが、スナオさんの場合は、ピボット①のようにペインをずらしていく案もあれば、ピボット②のようにターゲットをずらしていくという案もあります。
また、メンターXの助言のように「ピボットの軌跡を可視化しておくこと」は大事です。スナオさんは現在一人で新規事業を考えていますが、事業の可能性が見えてくれば、チームメンバーが増えていく可能性があります。もしチームが10名ぐらいまで増えた時に記録を残していないと、10人目のメンバーはスタート時に何をやっていたのかが分からないまま事業に取り組まなくてはなりません。こうした自体を防ぐ意味でも、簡単な記録や図に残しておくのは組織的に大事なことです。
メンタリング3日目の最後に、「悩みに関わる量感」を調べておくよう、メンターXはスナオさんに宿題を出しました。
「悩みがビジネスとして成立するかを決めるのは、その切実さと量感です。どれだけの補助金数が出てきたのかを調べておいてください」(メンターX)
前編となる本記事では、メンタリング1〜3日目までの内容を元に「インタビュー? Web検索? 新規事業の『アイデア』着想時のポイント」についてをご紹介しました。後編では、メンタリング4〜7日目までを踏まえ、「第2話 顧客の立場になる、そして叱られる。『体験型』リサーチのススメ」「第3話 インタビューを活用した高速検証×ピボットのリアル」をお送りします。
今回ご紹介した『新規事業伴走メンタリング』サービスの詳細は当社HPからもご確認いただけます。もし、ご興味をお持ちの企業ご担当者様がいらっしゃいましたら、こちらからご連絡頂けますと幸いです。
本セミナーレポートの後編を含めた全文は以下のダウンロード資料より無料でご覧いただけます。後編では具体的なリサーチ手法や検証・ピボットのノウハウについて語っております。是非ご覧ください。