バリュープロポジションキャンバス(VPC)とは? -顧客の悩みに応える提供価値をデザインする方法- (テンプレート付)
新規事業においてビジネスモデルの検討は必須の取り組みです。その上で有用なのが「ビジネスモデルキャンバス」というフレームワークです。
一方、このフレームワークを「活用しきれていない」と感じている方も多くいらっしゃるようです。使いこなせば非常に強力である一方、実は様々な検討上の難しさがあるフレームワークでもあります。
ビジネスモデルキャンバスを活用するには、そのフレームの意味、必要な粒度間、検討手順を理解する必要があります。
本記事シリーズでは、新規事業のコンサルティングを数多く手がけてきた弊社メルセネールが体系的に整理している新規事業開発方法論より、ビジネスモデルキャンバスの基本的な書き方とビジネスモデルの基礎を解説します。
まず、ビジネスモデルの理解にあたって、「新規事業成功のために必要なこと」をシンプルに言語化してみましょう。すると以下のように表現できます。
新規事業を成功させるためには、以下の3つが必要である。
①新規事業ならではの中長期的な戦略・計画
(↓しかしいきなり中長期の視点・戦略の検討は難しいので、中核部分をハイライトすると)
②競争優位を持ちながら、顧客を獲得し、自社の価値を提供し続けるモデル
(↓そもそも顧客が誰で、何を提供すべきかがわかっていないと継続的なモデルを考えようもないので、)
③顧客が何に悩み、何を求め、何をもって解決できるのか、という”顧客と解決策”の理解
実際には上流の①から考えていくのは難しいため、③→②→①のように下から戻りながら、または行ったり来たりしながら考えることが重要です。③で述べる「顧客と解決策」の重要性は様々なところで語られていますが、新規事業においてはあくまでもそれはスタートラインなのです。
そして今回のテーマである「ビジネスモデル」は、この3つの中間にある②にあたる要素となります。
いくら顧客理解を深めたところでビジネスモデルがなければ顧客に価値を届けることはできず、如何に精度高く中長期的な戦略を描いたとしても、ビジネスモデルが無ければ絵にかいた餅に終わってしまいます。
そのように考えると、「ビジネスモデル」の意義がより理解いただけるのではないでしょうか。
ビジネスモデルキャンバスは、スイスのビジネス理論家・起業家でもあるアレックス・オスターワルダー氏によって提唱された、ビジネスモデル検討のためのフレームワークです。
下図のような9つの箱から構成されます。
VP(Value Proposition):価値提案
・顧客に提供する価値
・具体的なソリューション
CS(Customer Segment):顧客セグメント
・ターゲット顧客像
・顧客が成すべきこと(Job)や悩み(Pain)
CH(Channel):チャネル
・顧客に価値を届けるためのチャネル(Webサイト、店舗、アプリ etc…)
KA(Key Activity):重要なアクティビティ
・ビジネスモデルを実現するために重要なビジネス上の仕組みや活動
KR(Key Resource):重要なリソース
・ビジネスモデルを実現するために必要なリソース(人材、ノウハウ、インフラ、ツールetc…)
CR(Customer Relations):顧客との関係
・顧客と関係を構築するための方法
※単なる顧客接点のみならず、顧客との関係を構築するためのあらゆる取り組み全般を指す
KP(Key Partner):主なパートナー
・ビジネスを実現するための重要なパートナー(提携会社、原料メーカーetc…)
C$(Cost Structure):コスト構造
・ビジネス上必要なコスト(人件費、固定費、広告費etc…)
R$(Revenue Stream):収益の流れ
・売上などのお金の流れ
この9つの要素は、事業を行うにあたって考えることをシンプルに網羅しており、抜け漏れのないビジネスモデル検討の上で非常に役に立ちます。
一方で、筆者の経験上、使いこなせている人は少なく、途中で使うことを諦めてしまう人も多いのも事実です。
しかし使いこなせると非常に大きな武器となります。そのためのポイントをこれから説明していきます。
ビジネスモデルキャンバスは、大きく真ん中で2つに分けて考えることができます。
右側が「顧客へソリューションを届け対価を得る仕組み」などの対顧客の観点、左側が「ビジネスを実現するために必要な仕組みとコスト」などビジネス側の観点となっています。
そしてその真ん中に、顧客とビジネスの間をつなぐ「提供価値」があるという構造です。
この大きな2つ(ビジネス|顧客)の俯瞰的な切り分けを理解しておくことが、使いこなす上で重要なポイントとなります。
ビジネスモデルキャンバスについてWeb検索をすると、下図のような例を目にすることがあります。
一応各ボックスは定義に合わせて埋められてはいるものの、抽象度が高く、ここからビジネスモデル上の強みや秀逸性を見出していくのは難しいでしょう。
ビジネスモデルキャンバスの作成の目的は箱を埋めることでなく、先に述べたように「顧客を獲得し、自社の価値を競争優位をもって提供し続けるモデル」を描くことにあります。その目的を意識したキャンバスを描くことが重要です。
このような、箱を「なんとなく」埋めることで作られる「なんとなくキャンバス」から卒業することが、ビジネスモデルキャンバスを使いこなすための第一歩と言えます。
では実践的なビジネスモデルキャンバスを作っていくためには、どのような順序で進めるべきなのでしょうか。
私たちがおすすめするのは、いきなりビジネスモデルキャンバスを埋めるのではなく、まずクイックに「骨格」から作っていく方法です。
私たちは、ビジネスモデル設計を以下の3層の構造で捉える形を推奨しています。
いきなりビジネスモデルキャンバスを作成しようとしても難しいので、まずは概観をとらえるための、「シンプルスキーム」での整理を行い、ビジネスモデルの「骨格」を作ります。
その後、ビジネスモデルキャンバスを用いて「肉付け」し、さらに「ディテール」を深めていく、というのが推奨の流れです。
ここでいう「シンプルスキーム」は我々メルセネールが実際のプロジェクトで用いている独自のフレームで、ビジネスモデルの全体像を素早くかつシンプルに捉えるためのものです。
具体的には下図のようなもので、ビジネスモデルキャンバスの骨格部分のみを抜き出したものと理解いただくのが良いでしょう。
シンプルスキームは以下の手順で検討します。
①自社・ソリューションをボードの真ん中に、ターゲット顧客を右側に置く
②要素間を矢印でソフト(目に見えないもの)・ハード(形を伴うもの)・お金の流れを結ぶ
シンプルスキームは、文字通りシンプルに作成することがポイントです。結局シンプルにまとめられない・伝わらないモデルは実現が困難になります。
こちらのシンプルスキームを骨格として作っておくことが、後のビジネスモデルキャンバスのベースとなります。
シンプルスキームができたら、それをベースにビジネスモデルキャンバスを検討していきます。前述のようにシンプルスキームは、ビジネスモデルキャンバスの骨格を抜き出したものであるため、そのまま同期してビジネスモデルキャンバス検討に繋げることができます。
この中で、シンプルに表現していた内容をより粒度細かく、シンプルスキームでは表現できない全体的な仕組みを検討することになります。
具体的な手順は以下です。
シンプルスキームにおける「自社ソリューション」はビジネスモデルキャンバスにおける「VP(提供価値)」に、「ターゲット顧客」は「CS(顧客セグメント)」に、「内部リソース」は「KR(主リソース)」に、「外部パートナーリソース」は「KP(主パートナー)」「KR(主リソース)」に、お金の流れは「R$(売り上げの流れ)/C$(コスト構造)」に…のように、シンプルスキームとビジネスモデルキャンバスの各項目を同期させます。
まずは簡単な粒度で良いので、シンプルスキームの内容をビジネスモデルキャンバスの該当箇所に書き写してみましょう。
一度同期してみると、全く埋まらない箇所や、これだけでは不十分であると感じる箇所があることに気づきます。そこを仮説ベースで埋めていくのが次のステップです。その中で、「もっと詳細な検討が必要な箇所」のあたりもつけておきましょう。
このようにシンプルスキームを経ることで、仮説ベースでのシンプルなビジネスモデルキャンバスを描くことができました。しかしこのままでは、先に述べた「なんとなく」キャンバスの域を出ません。
このキャンバスの骨格を、より詳細化して使えるものにするための手順を次の記事で説明します。