バリュープロポジションキャンバス(VPC)とは? -顧客の悩みに応える提供価値をデザインする方法- (テンプレート付)
ビジネスにおいて製品やサービスを市場で成功させるためには、「顧客基点で提供すべき価値を検討し、そこに自社の強みをはめ込んでいく」ことが求められます。
しかし「顧客の悩み・提供価値・自社の強み」をもれなく、かつ整合性を取りながら検討していくことはそう簡単ではありません。
そこで有用となるフレームワークが「バリュープロポジションキャンバス(Value Proposition Canvas / VPC)」です。
本記事ではバリュープロポジションキャンバスとは何か、どのように活用すべきかを例を上げながら解説していきます。
バリュープロポジションキャンバス(VPC)は、顧客の悩みや課題とそれに応える製品やサービスの提供価値(バリュープロポジション)を可視化するためのフレームワークです。
スイスのビジネス理論家・起業家でもあるアレキサンダー・オスターワルダーによって提唱されたフレームワークで、以下のような図で表されます。
このツールは大きく2つの部分から構成されます。
さらに、それぞれは以下の要素から成ります。
右側のCustomer Segment
左側のValue Proposition
これらの項目を1つずつ整理しながら埋めていくことで、顧客が求めるものと、製品やサービスが提供すべき価値を整合させながら検討していくことができます。
「ドリルを買いにきた人が欲しいのは、ドリルではなく『穴』である」
マーケティングを学んだ人ならば、この言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
この言葉は、「顧客には達成したい目的、ありたい状態がある。モノを売るためには、そこに資する提案をしなくてはならない」ことを伝えています。
これは、ビジネスの基本とも言えるでしょう。
しかし実際のところ、多くの企業で「ウチのこの技術・テクノロジーがすごいんです」とか「業界最大の保守体制です」など、「顧客が求めているものを理解しないまま、自社の強みを一方的に売り込む」ことをしてしまっているケースをよく見かけます。
競合が少ない、もしくは多かったとしても知られていない状態ならば、顧客は限られた選択肢しか持てないので、多少自社基点でも押し込めるかもしれません。
しかし、多くのサービス・商品が溢れ、インターネット等を通じて顧客が情報を簡単に取れるようになった現代、顧客基点でなく、顧客の悩みに合っていない商品・サービスは選ばれにくくなっていると言えるでしょう。
自社の強みの活用は重要ですが、それ以上に、「顧客基点で提供すべき価値を検討して、そこにうまく自社の強みをはめ込んでいく」という考え方が大事になってくるのです。
この考え方に基づいて具体的な検討を進める上で、バリュープロポジションキャンバスは非常に有用なツールとなります。
バリュープロポジションキャンバスを用いることで、顧客の悩みと提供すべき価値(もしくは何の情報が不足しており、どのような調査をすべきか等)が比較的クリアに見えてくるはずです。
まず可視化することで、製品やサービスをどう開発 / 改善すべきか、マーケティングや営業をどのように行っていくか等の検討のベースを作ることができます。
バリュープロポジションキャンバスの作成においては、基本的には右から左へ流れていくように考えることをおすすめします。これはまず顧客基点で考えてから、提供価値を考える順番とするためです。
また、単に思いついたことを書き込み、埋めるだけでは、漠然とした薄っぺらいものになりがちです。より有用なバリュープロポジションキャンバスを作るためのポイントと、具体例(フィットネスクラブの例)も合わせて以下に解説していきます。
まずはCustomer Jobs (顧客の成すべきこと/解決したい課題)を検討します。ここが一番のキモと言ってもいいくらい、重要でかつ難しい領域です。
ここでまず意識すべきは、「具体的なイメージがわくか?」ということです。
例えばフィットネスクラブのバリュープロポジションキャンバスを検討する際、まず思いつくCustomer Jobとしては「健康になりたい」等があるでしょう。しかしこのJobは漠然としており、思い浮かぶ顧客像も若者から高齢者まで様々です。
そこで、「Customer」と「Job」は一旦切り分けて考えることをおすすめします。
例えば「Customer」を「都心で朝から晩までバリバリ働いている中堅マネジメント層のビジネスマン」と具体的に考えてみると、少し顔が見えてくるのではないでしょうか。
また、Jobに関しても漠然と「健康になりたい」程度でとどめるのではなく、「Customerが真に成し遂げたい、理想の状態」を深堀していくことが重要です。その際には特定のコンテキスト・シーンを設定することがポイントです。
このビジネスマンの例で言えば、「マネージャーとしての責任や振舞いが求められている」といったコンテキストがあり、「多くの顧客や部下を抱えている中で、マネージャーとして実績・成果を出し続ける」のが理想の状態(≒Job)と言えるかもしれません。
一見フィットネスクラブから離れたようにも見えますが、このように具体的な顔が思い浮かぶまでCustomerを絞り、更に生々しいイメージ・ストーリーが見えてくるようなJobを設定することが、この先のバリュープロポジション検討にも活きてくるのです。
※Jobの設定は本来、顧客との対話や顧客の立振る舞いの観察等、様々なヒントをもとに、仮説を織り交ぜながら考えていくものです。百発百中でJobを当てる方法は無く、仮説構築と検証を繰り返す過程の中で探り当てるものだと理解してください。Jobの検討は非常に奥が深いので、より詳しく知りたい方はクリステンセン教授のジョブ理論等の書籍をご参考いただくことをおすすめします。また弊社代表大道寺によるこちらのnoteも合わせてご参考ください。
Customer Jobを適切に設定出来たとしても、一足飛びにそれを解決するための提供価値を考えることは困難です。もう一段階、顧客を深掘って理解する必要があります。
そこで重要な視点になるのがPainとGainです。
Painとは、”Job(=理想の状態や成し遂げたいこと)を実現するにあたっての悩み。障害となること”です。
先ほどの中堅マネージャーの例で言えば、
などが挙げられるでしょう。
Painはいろんな視点から洗い出していくことが大事ですが、ただ洗い出すだけでは表層的になり、その後の解決策には繋げにくくなります。そのPainを引き起こしている要因まで掘り下げて特定することを心がけましょう。そのためには机上の分析だけでなく、実際の顧客インタビュー等の取り組みも重要になります。
Gainとは、Jobを実現する中で満たすべき成果を指します。機能的な結果だけではなく、感情的・社会的な結果も捉えるとよいでしょう。
中堅マネージャーの例ならば、
などが挙げられます。
Gainについても、机上の整理ばかりにこだわらず、一定の仮説を作ったら実際にターゲット顧客に候補に話を聞いたりしながら深堀することを意識しましょう。
※Pain/Gainの掘り下げについて詳しくは、こちらのnoteを参照ください。
Pain Relieverは、「Painを取り除く/解消する要素/仕掛け」を指します。
まず最初に覚えておくべきは、”Painはコントロールできないが、Pain Relieverはコントロールできる”ということです。
Painはあくまでターゲット顧客が抱えていることであり、常に仮説を立てながらも、継続的に検証して、客観的に理解していく必要があります。
一方で、そのPainを取り除いたり解決する方法、すなわちPain Relieverは主体的に作り込んでいくことが可能です。
時に自分に都合よくPainの仮説をつくったり、検証の際に誘導質問するような方がいますが、Painは徹底的にお客さん基点で理解することが重要なのです。自分たちの都合を加味するのはPain Relieverを考える段階からです。
Pain Relieverを考える際は、前述のようにPainを引き起こしている真の要因を探り続けることが重要です。
今回の例では、「部下の相談に十分乗れていない」というPainを掘っていくと、「その原因は、自身の業務に時間を取られているから」→「その原因は、そもそも仕事量が多く、また業務に対する処理速度が足りていないから」→「その原因は、肉体的にも精神的にも疲れてしまっているから」…のように、要因を掘り下げていくことができます。
このようにPainを引き起こす要因を掘り下げた後で、それを解決する要素を出していきます。
まずは自由な発想で、その要因を解決するカケラを集めていきましょう。その上で、自社が本当に提供したい・提供すべき価値とは何なのか?を合わせて問い続けることがポイントです。
今回の例では、「本来の働く時間を十分に確保しながらも、働く以外の時間に融通を利かせられる」「他人に気を遣わず自分の過ごしたい時間に集中できる環境」などが提供すべき本質的な価値である、といった考え方ができます。(下図参照)
なお、Pain Relieverを考えていると「色々な案が出てきて、それらを網羅的に洗い出して対応していたらキリがない」状況になることがあります。これ自体は悪いことではなく、様々な可能性を広く検討出来ている証拠です。
一方で企業のリソースは限られているので、Pain Relieverを「自社の強みが活きるか?」と「自社がやりたいことか?」の視点で絞っていく必要があります。
等の大前提を改めて整理した上で、本質的な価値を絞り込んでいくようにしましょう。
くれぐれもですが、
の順番を忘れないでください。
Gain Creatorは、Gainを生み出す要素/仕掛けを指します。
こちらもPainと同様、Gainを深掘って考えていくことがポイントです。
Painの場合は「Painを引き起こしている要因」を検討しますが、Gainの場合は「Gainをもたらす要因・背景」を深掘っていくイメージで考えると良いでしょう。
なお、Gainの論点は結構難しく、経験上Gain Creatorを考えたのちにProduct / Serviceを検討するというより、先に⑤Product / Sercviceを検討した後に、それがGainを満たしているか?を検証するような目的で作成すると良いケースが多いです。
では、ここまで考えてきたPain ReleiverとGain Creatorをもとに具体的なサービスの中身に落とし込んでいきましょう。詳細な機能レベルではなく、自分たちのサービス・ソリューションとして提案したい内容を挙げていくとよいでしょう。
今回の例では「本来の働く時間を十分に確保しながらも働く以外の時間に融通を利かせられる」というPain Relieverを、具体的なフィットネスクラブのサービスとして表すことをまず考えてみます。すると以下のようなことが挙げられるでしょう。
次に、「他人に気を遣わず自分の過ごしたい時間に集中できる環境」というPain Relieverの視点から考えてみると、
などのサービスが考えられます。
このように本質的な価値を踏まえながら考えていくと、どのようなサービスを開発していくべきなのか、また真の競合は誰なのか、顧客のどの悩みをもっと深堀りしていくべきなのか等の新たな視点が生まれてくるのではないでしょうか。
このように、バリュープロポジションキャンバスは新たな視点を得つつ、顧客の悩みとサービスの方向性を整合させながら事業を検討していく上で有用であることがおわかりいただけましたでしょうか。
なおバリュープロポジションキャンバスは一度作って終わりにするのではなく、自分たちのサービスが何と比較されてしまうのか?顧客は真に何を求めているのか?を意識しながら、継続的なブラッシュアップを行っていくことが必要です。
本記事は5000文字を超える長さとなりましたが、これでもバリュープロポジションキャンバスの活用におけるごく基礎的な内容のみを解説したものとなります。
事業開発・推進の上では、ビジネスコンセプトの検討からビジネスモデル設計、営業・マーケティングまで様々な内容を検討していく必要があります。
そのようなノウハウについても引き続き発信していきたいと思います。
すぐに使えるバリュープロポジションキャンバスのpptテンプレートを無料配布しております。
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